『小説熱海殺人事件』つかこうへい

さて、世の中でおこる事件には時代の感覚がよくあらわれる。『熱海殺人事件』はそこを捉えて、物語に仕立てあげていく。劇作家の描く小説はリズム感がいい。
演劇仲間でもあったつかこうへいと井上ひさしの昔の対談から、ふたりの興味を少しだけ紹介。この会話だけでももう演劇が始まりそうです。

井上:うちの近くに家出をくり返す中学生がいたんです。家庭保護司が一所懸命、家出しちゃいけないと言った。すると「おれのは家出じゃない」と言う。しばらく考えて「家がないところからどうして家出ができるか」と名セリフを吐いた。
つか:こわい(うまい)もんです、近ごろの素人さんは。もう泣けます。

つか:小学校6年生くらいの子が、吹き矢で相手の目をひょいと撃って、目がつぶれた。それで逃げた。ひと区切りついたところまで逃げて、自動販売機でドリンク一本買って、また逃げた。相手の目がつぶれているんですからかなり怖い。「あ、やばい」と思って逃げても、マジメに逃げない。
井上:ハハハハ。
つか:ドリンクを一本、百円入れて買った。この余裕が、原爆のボタンを押すよりも怖い。(2017.5.17)

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