『計算する生命』森田真生

 数学は公式そのものを自分で導けるようにすれば練習問題はあまり必要ないと考えていた。公式は暗記しない。参考書も問題集も買わない。ド田舎の高校時代のことだ。それがはまって数学だけは誰にも負けなかった。
 建築を志し、空間はもっと複雑で混沌としているってことを学んだ。実空間には数学のような清潔さは持ちこめない。ところが最近また高校時代の感覚がむくむくとよみがえってきた。一つ一つの問題を前に、いちいちそれと格闘するのではなく、ひとつ引いた視点から、問題の性質そのものについて考えること。これは「数学」と「設計」に通じる思考法そのもの、公式を導き出す感覚だ。デカルトが目指したのも、数学的な思考の本質を「方法」として取り出して応用することだったとは興味深い。

 実は高校までの数学は18世紀以前の内容がほとんどだと知った。本著でもデカルトまではふむふむと理解が進んだが、主題はその先にあった。「直感に訴えかけない」「概念と論理」が前面に出始め、直感は排除されてどうにも窮屈な世界に突入する。リーマン、フレーゲ、チューリングから人工知能に至る数学が時代を推し進め、現代につながる必然を示してくれている。
 高校時代のように「力ずくで公式を導き出すタイプ」のアプローチでは現代の数学はまったく通用しないこともわかった。AIが進んだせいで人間は機械のように振る舞うようになったなんて分かったつもりになっていたら、そもそも「人間が機械を模倣する」ことで数学は発展してきたのだと著者は言う。計算はまさに!
 数学は何よりも早く未知の概念を生み出し、世界の見方を変え、拡張してきた。著者は世界の原理そのものにまで迫ろうとする、その気概が高校の頃から今につながるボクの思考癖まで解き明かしてくれる。(2022.4.10)

Gallery