4つの短編からなるこの本はとても好きで、時々に読み返します。父あるいは弟とのあいだにある私の心の動きを、それぞれ美化せず正直に捉えつつ、こんなにも美しく書けるものなんだと感心するばかり。
表題の「百」のほか「連笑」「ぼくの猿、ぼくの猫」「永日」という短編が、父と弟と私のそれぞれの外伝(Another Story)になっているような関係性が面白い。中上健次なら『岬』『枯木灘』と『鳳仙花』のように、白土三平なら『カムイ伝』と『カムイ外伝』のように、すぐれた物語とはそもそもそういう多視点、多焦点で、多層的に描かれるものなのかもしれません。
もしあなたが小学校の教室でのある場面を思い出すとして、いつも見えていた景色(まなざし)の反対側をのぞいてみると(記憶の限りで思いだしてみると)、おとなしく座っていたあの子、あの子から見えている教室またはぼく、そんな視点と想像力が物語なのだ。(2017.9.16)