写真:山田脩二
掲載誌
2012 『住む。41号』
2011 『住宅建築』4月号―特集 生きつづけている場所で―
before
竣工年 :2010年 築120年の家を改修
所在地 :愛媛県西予市明浜町狩浜
用途 :住宅
構成 :夫婦+子ども2人
構造 :木造平屋建て
敷地面積 :156.46㎡
延床面積 :120.11㎡
設計期間 :2010年5月〜
工事期間 :2010年8月〜10月
施工 :直営工事+自力建設
集落のメインストリート、山の水と海の水が出会う小さな川の通り沿いに、築100年を超える古家が三軒、軒を連ねている。その風景が集落の暮らしを物語っていた。そのうちの1軒、築120年を超える古家には、座敷と土間があって、畳をはがすと囲炉裏もでてきた。土間には煙出しの越屋根。建具は障子に雨戸があるだけ。日の暮れる頃、薄暗い家のなかに障子からこぼれる明かりが美しい。床下にある大きな芋蔵はこの地域の暮らしの深い闇を抱えているかのようだ。離れには肥だめのある便所と五右衛門風呂。数年前までばあちゃんがひとりで住んでいたと聞いたけれど、その暮らしぶりにただ感服するばかり。改修の自力建設は、そんな故人の身体をなぞるような経験でもあった。
海に近いせいか古家の基礎は石積みになっており、水まわり(台所)を除いて土台の腐食はほとんどない。便所と風呂が離れだったことも幸いした。傷みの激しい部分だけは剥がし、この地に適した元々の間取りに近づける。解体した資材をできる限り再利用して、土と木と紙で家をつくろう。そんな単純明快な家が明浜の風景によく似合う。こうして改修作業は始まった。
解体した離れの屋根瓦は玄関のコバ立て敷きに、壁土はたたき土間に、余った瓦や土は畑に戻す。解体を含めたこれら単純な作業は、学生や友人、地元の人、フィリピンからの農業研修生ら数多くの助力を得ながら、素人でできることは何でもやった。私たち設計者も泊まり込み、最後のひと月は労働者となっていた。合宿体制となっていった現場に、上原夫妻の友人や家族が炊出しをしてくれて大助かり。上原君は仕事を一カ月休んで家づくりに専念した。若い建主が自らカナヅチをふるいノコギリを引き、自らの家をつくる様子を見て、道行く人のねぎらいの声が届く。驚きや心配の顔で足をとめ、みなそれぞれの経験と知恵を熱心に語ってくれる。
この地域で古家を改修して住むことは、懐古趣味もエコロジーも関係しない。ただそうするのがあたり前のことだ。自らの家づくりにどっぷりと関わろうとすること。これは簡単なことではない。しかしこのハードな経験を経て、心身の疲れと引きかえに、目の前の建築はしだいに息を吹き返していった。暮らしがはじまることで生き物のような家は再び大きな呼吸をはじめる。